【社会システムを観る #4】AIで便利になるはずなのに、なぜ私たちは「失業」を恐れるのか?

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「AIが発達して、自分の仕事がなくなったらどうしよう……」

ChatGPTなどの急速な進化を目にして、そんな不安を感じたことはないでしょうか。

本来、科学技術の発展やロボットによる自動化は、過酷な労働から人間を解放し、暮らしを豊かにしてくれるはずのものです。それなのに、なぜ新しい技術が生まれるたびに、私たちはワクワクするどころか「失業の恐怖」を抱いてしまうのでしょうか?

その原因は、技術そのものにあるのではなく、私たちが使っている「特許」や「富の分配」という社会システム(ルール)にあります。

前回は、モノが行き渡った飽和社会における「産業の限界」と、社会を無理に成長させようとする「金利の力学」について確認しました。今回は、システムが過剰な成長を求める中で、いま最も大きな変化をもたらしている「AIや自動化技術(テクノロジー)」の台頭について考えます。

前回の記事はこちら ↓

【社会システムを観る #3】昭和と令和で何が変わった?「経済成長が止まった本当の理由」
モノは十分に溢れているのに、なぜ私たちは働き続けなければならないのか?「失われた30年」の裏にある産業構造の限界と、社会全体に成長を強制する「金利」の正体を観ることで、現代の違和感を解き明かします。

社会システムを観る #4AIと特許――技術は誰を豊かにするのか?

団子職人とロボット――「技術革新」の裏で何が起きているのか?

ある社会の仕組みを客観的に観るために、次のようなストーリーを考えてみましょう。

◆ ロボット登場前の世界

全国に100人の「団子職人」がいました。 職人たちは1日100個の団子を作り、1個100円で販売していました。職人1人の売上は1日1万円。月20万円、年約240万円の収入を得て、自分と家族の暮らしを支えています。

このとき、団子業界全体の年間売上(=GDP)は「2億4000万円」であり、100人の職人がそれぞれの地域で生活を営んでいました。

◆ 「団子製造ロボット」の登場

あるとき、非常に優秀な開発者が「団子製造ロボット」を発明しました。 ロボットは人間よりも効率よく団子を作ることができるため、「1個90円」で販売を開始します。

  • 消費者 「安くて美味しいなら」と、全員がロボットで作られた団子を買うようになりました。
  • 団子職人 価格競合に勝てず、100人の職人全員が廃業(失業)に追い込まれました。
  • ロボット開発者 市場のシェアを独占し、毎年2億円以上の莫大な収入を得るようになりました。

(わかりやすくするために、材料費やロボットの維持費などは考えないことにします。)

構造を「よく観る」――何が増えて、何が失われたのか?

この現象が起きたとき、社会全体で何が変化したのかを客観的に観てみましょう。

  1. 届いている「価値」は変わっていない
    社会全体としては「1日1万個の団子が人々に届けられている」という価値の本質は何も変わっていません。むしろ安くなった分、消費者の負担は減っています。
  2. 計算上のGDPは減少している
    業界全体の年間売買高は「2億4000万円」から「2億1600万円」へと減りました(100円$\rightarrow$90円になったため)。
  3. 「1人の超大金持ち」と「100人の失業者」が生まれた
    かつて100人の職人に分散していた地域社会の収入が、たった1人の開発者のもとへ集約・移転しました。

これが、今の社会ルール(特許制度と資本主義)のもとで起きている「技術革新と富の集積」の構造です。

歴史を振り返れば、これは過去の産業革命でも起こってきたことです。しかし、これをこのまま続けていくのが、社会として最善なのか。これは本当によく考える必要があると思います。

ここで関わってくるのが、「特許」のような仕組みです。特許は、発明した人に、一定期間(原則として出願から20年)、独占的に使える権利を認める制度です。発明を促すための大切な仕組みですが、同時に、技術の成果が誰に集まるのかを決める仕組みの一つでもあります。

技術を「独占財産」にするか、「共有財産」にするか

現代の日本を見渡すと、すでに「家が余っている(空き家問題)」という現実があります。衣食住の「住」に関しては、すでに需要を満たして余りある状態です。

そして「衣」や「食」に関しても、AIやロボット、自動化技術が人間の代わりに生産してくれる未来はすぐそこまで来ています。

もし、技術が生み出す成果を社会全体で享受できるなら、「人間は無理に働き続けなくても、ロボットに任せてゆったりと暮らす」という選択肢だって可能なはずです。

その分かれ目となるのが、技術(特許)をどのような存在として捉えるかです。

  • 【パターンA】技術を開発者の「独占的財産」とするルール
    現状のルールに近い形です。開発者のイノベーションを強力に保護する反面、「1人の超大金持ちと、大量の失業者」を生み出すリスクが高まります。
  • 【パターンB】技術を社会の「共有財産」とするルール
    例えば「特許による独占期間や利益率に一定の上限を設け、残りの成果は社会に還元し、失業者の生活費や再学習費に充てる」といった仕組みです。

もちろん、必死に努力してロボットを開発した発明家や企業の発想・情熱には、社会として正当に報いる必要があります。しかし、「開発者の権利保護」と「人々の暮らしの安定」のバランスをどこに置くかは、固定された絶対の真理ではなく、私たちが社会システムとして選択できる「ルール」なのです。

これらはあくまで一例です。正解は分かりません。ただ、「私たちは、どんな社会システムの中で暮らしたいだろうか?」と考えること。それは、市民、民主主義、政治の根幹だろうと思います。

総括

私たちは「どんな社会で暮らしたいか」

「働かざる者食うべからず」という言葉は、かつて人間の手労働だけが頼りだった時代の前提(常識)でした。

しかし、テクノロジーが人間の能力をはるかに超えて生産力を高めていくこれからの時代において、その前提自体を疑ってみる必要があります。

テクノロジーに怯え、仕事を奪われないように必死にしがみつくのか。 それとも、テクノロジーを社会の共有財産として上手く活用し、誰もがゆとりのある豊かな時間を過ごせる社会を目指すのか。

あなたは、どんな社会で暮らしたいですか?
あなたは、どんなルールがいいと思いますか?

正解は一つではありません。しかし、「今のルールのままでいいのだろうか?」と立ち止まり、自分たちの外側にあるシステムを「よく観る」こと。それこそが、市民として、そして一人の人間として、これからの時代を本質的に豊かに生きていくための第一歩になると考えています。

連載記事一覧(バックナンバー)

第1回:GDPが増えても、私たちが幸せになるとは限らない理由

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「GDPが増えれば、私たちは本当に幸せになれるのか?」当たり前に使われる経済指標の正体は、実はシンプルな「売買高」です。身近な日常の例から、現代社会が目指す“豊かさのベクトル”を客観的に紐解きます。

第2回:「高いもの=価値がある」という錯覚を解き明かす

第3回:産業の限界と「作られた経済成長」

【社会システムを観る #3】昭和と令和で何が変わった?「経済成長が止まった本当の理由」
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第4回:AIと特許――技術は誰を豊かにするのか?【今回】

第5回

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