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人間関係で事故起こしたくない=距離を取る
よく人間関係の技術というものを、運転の技術に例えて説明します。
事故を起こさないことだけを考えたら「車間距離をとる」。これが一番です。人間関係も同じで、事故を起こしたくないなら、喧嘩になりたくないなら、距離をとる。これが一番です。
以前動画に出演していただいたTさんも、まさにこれという感じで「喧嘩したくないから、距離を縮めない」というタイプでした。
飛行機でもアクロバット飛行というのがあって、翼がぶつかりそうなくらいの近さでものすごいスピードで一緒に飛んでいくのがあります。車でも、凄い近い距離で高速運転をするショーのようなものはあります。あれは当たり前ですが、高い運転技術が要ります。
ちょっと間違えたらすぐぶつかって事故になってしまいそうな距離なのに、事故にならない。見事にシンクロして動く。だから見てる方も感動するわけです。
人間関係から得られる豊かさも「距離が近い」からこそ得られるものがあります。車間距離をとっていれば、事故にはなりませんが、豊かさを育むこともできません。
事故になるのが嫌だからと、距離をとっていたら、運転技術は上がりません。運転技術が上がらなければ、素晴らしいシンクロ運転というのはできません。
人間関係も同じで、喧嘩するのが嫌だからと、距離をとっていたら、人間関係の技術は上がりません。人間関係の技術が上がらなければ、素晴らしい人間関係という豊かな果実は得られないのです。
人間関係は面倒くさい?
面白いことにTさんは
僕、コミュニケーション力、高い方だと思ってました
と言いました。
確かに、Tさんは人当たりが良くて、人から嫌われるようなことはあまりないタイプに見えます。仕事の人間関係なんかも、そつなくこなせてそうです。
人間関係の技術というのは、つまりはコミュニケーションの技術なので、そんな人当たりが良くて仕事でも困っていないTさんが「自分のことをコミュニケーション力が高いと思っていた」というのは不思議ではありません。
けれど、それは「事故を起こさない技術」のレベルだったんですね。「豊かな人間関係を育む技術」のレベルではなかったんです。
もう一つの面白かったのは
でも、人間関係って面倒ですよね
という言葉もありました。
でもそれは、すごく解像度が低い話です。Tさんは、趣味で野球をしますが「野球って難しいですよね」って言われたら「え?バッティングの話?守備の話?」となるはずです。
「人間関係って面倒」っていうのは、もう少し細かく見ていくと、何が面倒なのでしょう?
例えば?と聞くと、出てきたエピソードがありました。
冷蔵庫に入れるものの蓋をちゃんとして欲しいんですけど、当時付き合っていた彼女がやってなくて。それでちゃんとやって欲しいと伝えたら「え、なんでそんなにキレて言われなきゃいけないの!?」ってキレられて、めんどくさって思って。
そういう面倒なことがあると別れるってことがありました。
※Tさんからエピソードの掲載許可はいただいています
つまり、Tさんは小さな喧嘩が起きたときに、「距離をとる」という方法を取るということをしていました。
Tさんは彼女ができたことがないわけじゃないんですが、なんかそういうことがあると「めんどくさ」が発動して、別れてしまっていたんですね。でも、「一緒に暮らす」というところから豊かな果実を育てていくためには、そこで踏み込んでコミュニケーションしていく技術が求められます。
では、踏み込んだコミュニケーションとはどうしたらいんでしょうか?
冷蔵庫の蓋事件を要素分解してみる
冷蔵庫の蓋事件を考えてみます。この事件は
- 冷蔵庫に入れる物の蓋をする(という内容)
- それを伝えたときにキレた言い方をした(という表現・解釈)
- さらに彼女もそれにキレてきた(という表現・解釈)
という要素に分解されます。
まず内容だけに絞ると
- 「蓋をするは二人の必須ルールにするのか?」
- 「気になるほうだけがやればいいのか?」
ということを話し合う必要があります。
Tさんからすれば「当然やるべきこと」かもしれませんが、彼女の方からすれば「気にし過ぎ」「細かすぎ」「毎回蓋をするのを注意しなければいけないのは多大なストレス」ということもあるかもしれません。このズレについて話し合います。
ちなみにこのズレは「部屋の掃除をどれくらいするか」「異性の友達とご飯に行っていいのか」など、いろんなテーマで起こります。
さらに表現・解釈の問題もあります。
- 彼女「そんなキレた言い方しなくていいじゃん」
- 彼氏「キレてないし。普通の言い方したし。むしろ、そっちがキレてんじゃん」
- 彼女「私の方こそキレていないし!」
みたいなことはよく起こります。
これについても話し合いをします。結論は、こういう話し合いを丁寧に行っていくということです。こういうことを丁寧に話し合っていくことができたなら、本当に豊かな人間関係を育むことができます。
「キレた言い方をしたか」「キレた言い方だと感じたかどうか」を話し合う
先に「表現・解釈」の話からします。「キレた言い方をしたかどうか」ということと、「キレた言い方だと感じたかどうか」ということの両面があります。
まず「キレた言い方だったか」ですがこれは
の幅があります。
そして「蓋締まってなーい!」といったときに、そこに乗っかっている感情は「キレてる度1」だったかもしれませんし、「キレてる度40」くらいだったかもしれません。たぶん、0ということはないんです。でもいきなり超怒鳴る=キレてる度100、みたいな言い方ではなかっただろうと思います。
そして、キレてる度に対して敏感な人がいるので「キレてる度1」で話しても、「え、でもあなた今キレてますよね」と解釈されることもあります。「0じゃなければ、1でも90でも、キレてるってことですよ」ということです。
・・・ということで、二人で「キレてる度計」を作りましょう。
それで、毎回「今のはキレてる度20の言い方だったね」と、確認するのを面白がってネタにするくらいが最高です。
これ毎回やってると「自分のキレてる度」を自覚する能力が凄くあがります。いわゆるアンガーマネジメントというやつですね。
さらに「冷蔵庫の中で、蓋の締まっていない瓶を見た」という瞬間に自分の「キレてる度」が30まで上がったことを自覚できるようになります。そして「ねぇねぇ、今キレてる度30のことを発見したので、それについて話したいんだけど、今いい?」とかって言えるようになります。
こうするとかなり「喧嘩の技術」が上がってきてます。
これはつまり近距離の技術であり、シンクロ運転の技術なのです。
ネガティブ感情は文通で伝える
表現解釈の技術、喧嘩の技術を上げていきながら「蓋をするべきなのかどうか」という内容・中身のことについても話をしていきます。
ちなみに、これについては「文通」という方法もお勧めです。一旦書くことで、かなり落ち着いて表現しやすくなります。
もちろん書きながら すごい腹が立ってきて、むかつくとかって文字にするケースもありますけど、でも文字に書いたものは、これはちょっと言いすぎかなとか、渡すかどうかもう1回判断できるんですよね。
でも むかつく!って、対面で口頭でバーンって出しちゃったら、この言葉をキャンセルすることはなかなかできないので、そういった意味でも文通は結構本当におすすめです。
蓋をして欲しい理由、蓋をしない人の言い分に対する自分の考え。こういったことを手紙にするわけです。
そうすると手紙が返ってきて、蓋をする必要がないと思う理由、潔癖症すぎるのをなおして欲しいと思う理由、さらに、言ってなかったけど直して欲しい思っていること…という手紙が返ってきたりします。
こういう文通を丁寧に繰り返すことで、「二人が暮らす場所」が「二人とも楽しく過ごせる場所」に育っていきます。
このプロセスは、最初は慣れないと大変かもしれないんですが、本当に慣れてくるとあたりまえにできるようになりますし、喧嘩が楽しいという表現はおかしいかもしれないですが、何だったら楽しいぐらいの気持ちで取り組めるようになれます。
どんなに好きで大切な相手でも、お互い違う人間ですから、ずれというのは当然あるんですけど、違うから距離を取るのではなく、ずれをお互いにとって心地のいいものにしていくためのコミュニケーションができると、より人間関係の幅が広がると思います。
ちなみに、もちろん、それはもう別に過ごす時間にしましょうみたいな2人の距離の取り方みたいなのもあるんですけど、一緒の空間で一緒に過ごしているときはこういう風にやっていきたいよねということは、2人で対話から育てていく。
そのプロセスも楽しめますし、これがちゃんと育っていくと、自分にとっても相手にとっても居心地がよく、何かあっても話し合える、お互いの信頼がある関係というのが、そこにずっと存在してくれるようになります。
人間関係で面倒なときすぐ距離を取るという選択をしがちな人へ
- 車の車間距離と同様に、「距離を取る」ということは事故を起こさないためには大事な選択肢
- でも、距離を取ってばかりだと、事故は起きないけど、深い繋がりを育むことも難しい
- 運転技術同様に、人との距離が近くても上手くコミュニケーションするためには、2人で対話の技術を磨くことが大切
⇒小さな喧嘩が起きたときに、まるっと面倒くさいとしてしまうのではなく、解像度を上げて要素を分解してみる
⇒人によって解釈・受け取り方は異なる、指標を可視化して、対話を試みる
⇒ネガティブ感情を話し合うときには文通がおすすめ