他者との関わりの中で、「本当はこう思っているのに言えない…」と気持ちを飲み込んでしまったり、逆にイライラして強い言葉をぶつけてしまい、あとから落ち込んだりすることはありませんか?
相手を尊重したい気持ちはあるけれど、自分ばかりが我慢するのも苦しい。
自分も相手も等しく尊重する心地よい関係性を築くためには、テクニック以前に「自分の内側で何が起きているのか」を丁寧に観察するプロセスが欠かせません。
今回は、対話の2大要素である「伝える」と「聞く」のうち、多くの人が躓きやすい「伝える」技術と、その前段階にある自己観察について紐解いていきます。
「聞く」技術についてはこちら↓

自分の気持ちを飲み込まずに「伝える」ための事前準備の3ステップ
人と対話するときには、「伝える」と「聞く」という2つの側面があります。当たり前のことのようですが、この2つの精度が高まっていくと、人間関係はぐっと築きやすくなります。
「伝える」の領域で代表的なのが「アサーティブコミュニケーション」です。書籍も多く、方法論としても広く知られています。
もうひとつ有名なのが「NVC(Nonviolent Communication:非暴力コミュニケーション)」です。相手を攻撃することなく、自分の本当の気持ちや願いを誠実に伝えていくためのアプローチです。
それぞれの具体的なスキルや手法については、すでに多くの書籍や動画で解説されています。詳しく学びたい方は、ぜひ気になったものを探してみてください。
今回の記事では、そうした「伝える技術」の本質的なエッセンスを整理しつつ、その前段階である「伝えずに飲み込んでしまう」心のブレーキの部分も深掘りしていきます。
自身の内側を「飲み込む」構造に気づく
職場で、家庭で、パートナーとの間で。「本当はこうしてほしいんだけどな」と思いながら、言葉を飲み込んだ経験はありませんか。
私たちは日常のあらゆる場面で、自分の考えや感情を無意識に飲み込んでいます。
- 職場: 上司や取引先など、立場が上の相手に対して
- 友人: 良好な関係を壊したくない同僚や知人に対して
- パートナーシップ: 「言っても無駄だ」と諦めてしまった家族や恋人に対して
では、なぜ私たちは、考えや想いを飲み込んでしまうのでしょうか。
いろいろなケースがありますが、ひとつには、「相手は嫌がるだろうな」「違うと反論してくるだろうな」「受けとめてくれないだろうな」という予測や想像がつくから、ということがあります。
または、これまでに自分の考えや想いを出したとき、クラスで否定された、先生に否定された、親に否定された、ということがあると、「この考え方は受け入れられないんだ」と学習します。そして、まったく新しい人と出会っても、言わないようにするのです。
これは、とても自然なことです。友だちにも、先生にも、親にも否定されたなら、きっとほとんどの人が否定してくるだろうと考えて、「言わない」を選ぶ。リスクマネジメントとしては、合理的な選択です。
でも実は、親でも友だちでも先生でもない、新しく出会った人に話してみたら、「ああ、わかる。私も結構同じ感覚」と言われるかもしれません。その可能性には、もう蓋をして、諦めてしまっていることも多いのです。
そして、言わないでいると、上手く伝える技術はいつまで経っても磨かれません。だから、ずっと飲み込み続けるしかない状態になっていきます。

ここを頑張って乗り越えて、自分の気持ちや考えを伝えていくこと。それが、「伝える」ことの大事なポイントです。
「伝える」前に、まず「観る」3つのステップ
自分の内側を偽らず、かつ相手の領域も尊重して伝えるためには、感情のまま言葉を放つのではなく、自他の内側を冷静に「観る」準備が必要です。

ステップ1:自分の気持ちを整理する(自己観察)
最初にやるべきは、「自分は何にモヤモヤしていて、相手にどうしてほしいのか」を明確にすることです。
実は「なんとなく嫌だ」「察してうまくやってほしい」という曖昧な状態で相手にぶつけてしまうケースが少なくありません。自分の伝えたいことがよくわからないまま相手にぶつけたら、相手も「結局どうしてほしいの? 何なの?」となってしまいます。
まずは伝える前に、自分の内側をノートなどに書き出して観察してみましょう。
- 自分は相手のどの言動に反応しているのか?
- 本当はどんな状態を望んでいるのか?
- 具体的にどういう選択肢(改善案)があるか?
ただし、この段階では、まだ相手に伝えません。整理するだけです。
ステップ2:相手の背景や価値観を想像する(他者観察)
整理ができたら、次に、これを相手に言ったら、どんな反応をするだろうかと想像します。
外れてもかまいません。「やってるよ」「うるさいな」「そんなことを言うなら、お前だって……」。そんな反応が浮かぶかもしれません。
ここで多くの方が、「言っても、結局受けとめてもらえないだろうな」と諦めてしまいます。ですが、ここが頑張りどころです。
その反応をする相手の、背景や状況を考えてみてください。なぜこの人は、そういう反応になるんだろう。こういう個性や価値観があるからかもしれない。こういう忙しさやストレスを抱えているからかもしれない。外れる可能性はあっても、相手のことをちゃんと考えてみるのです。
このとき、実は大きな変化が起きています。
それまでは、「私は相手にこうしてほしい」という、自分発信の、ある意味利己的な状態でした。自分にとってこうあってほしい、と、自分のことばかり考えていたわけです。そこに、「相手はどういう状況にいるんだろう」と、相手を考える時間が挟まります。
このプロセスをもっただけで、人間関係がよくなることは、とても多いです。もちろん、そんなに甘くないケースもあります。それでも、さまざまな方のご支援をしてきて、これだけでもだいぶ良くなる、という場面を、私は何度も見てきました。
ステップ3:相手が受け取りやすいように「伝える」
相手の背景を、自分なりにでもしっかり考えた上で、自分の伝えたいことも、相手が受けとめやすいように伝えます。これを重ねていくと、いい関係をつくりやすくなります。
事例:勤務スタイルが異なる上司へのアプローチ
少し珍しい例かもしれませんが、ある職場のケースで考えてみましょう。
上司はとても優秀です。ただ、遅刻癖があり、始業の9時ぴったりには、あまりオフィスにいません。朝一番に確認したいことも確認できないし、遅刻するのは社会人としてどうかとも思う。どうしてもイライラしてしまう。
(※企業によって異なりますが、一般的に管理職は、一般社員と労働時間の制限が異なるケースが多いため、今回の上司は法律違反には該当しないものとします)
自分の言いたいことは、「遅刻はやめてほしい。ちゃんと会社に来てほしい。イライラするので」です。
整理せずにぶつける場合:
「朝9時にいないのは社会人としてありえません。改善してください」 (相手の価値観を否定し、防衛・反論を引き起こす)
自他を観たうえで伝える場合:
- ステップ1(自己観察)とステップ2(他者観察)
ここまで整理されてくるかもしれません。
整理せずにぶつけると、たとえば「遅刻ってありえなくないですか。社会人としても上司としても、信頼も尊敬もできないので、改善してください」となり、「はあ?」と、関係が急激に悪くなってしまうかもしれません。
では、整理した上で、こう伝えてみたらどうでしょう。
- ステップ3(相手が受け取りやすいように「伝える」)
「私は、時間をきちんと大事にしたいタイプです。一緒にお仕事をさせていただいていると、最終的な納期や、お客さまにご迷惑がかからないところはしっかり守られる一方で、途中はずれることもあるし、9時〜17時にこだわらず、必要なら夜中でも対応される。逆に、必要がなければ朝いなくてもいい、というお考えかもしれません。ただ、私は9時〜17時にオフィスで一緒にいていただけた方が、相談もしやすくて助かります。少し改善していただけませんか」
こうなると、相手にもいったん受けとめてもらえて、「話し合う」に進みやすくなります。たとえば、こんな会話になるかもしれません。
「そうか、朝にオフィスにいないと、現実的に困ることもあるの?」
「朝一で相談したいことや確認したいことがあるときに、いらっしゃらないことがあって、ちょっと『ああ…』となることがあるんです」
「じゃあ、朝一で確認したいことがあったら、オフィスにいてもいなくても電話してくれていいよ。前日の帰り際に、明日確認したいことが出てきたらメールしておいてくれれば、翌朝までに必ずチェックして返信するから、それでどう?」
「ああ、じゃあそれで」
もしかしたら、上司が9時にオフィスに現れない状況は、相変わらず変わらないかもしれません。それでも、ストレスは少し減った、ということは起こり得ます。
このように伝えることで、相手を攻撃することなく、「事実と希望の共有」および「具体的な解決策の対話」へと進むことができます。
総括
対話とは「内側」を観るトレーニング
対話のスキル(アサーティブコミュニケーションやNVCなど)は世の中に数多く存在しますが、その根底にあるのは常に「自分と相手の双方をよく観ること」です。
自分の内側を置き去りにしたまま我慢を重ねる必要もなければ、自分の都合だけを相手に押しつける必要もありません。
まずは日々の小さなモヤモヤから、「自分は本当はどう感じているのか?」「相手の世界では何が起きているのか?」を観察することから始めてみてください。その観察の深さが、他者との豊かで本質的なつながりを育んでいきます。
「聞く」技術についての解説はこちら↓



